保谷

escargotskin2011-07-27

保谷という駅に初めて降りた。
西友TSUTAYAが駅に直結していて、
西友の食品売り場を通り抜けて通りへ出ると
後はひたすらさびれた商店街が続いている。

商店街が終わると踏み切りがある。
渡って右手に曲がってずっと行くと、
ファッションセンターしまむら」が見えてくる。
なんだかすごく遠いところに来た感覚だ。
また踏み切りがあって、小さな墓場の裏手に、
ただ住宅の一階を真っ白にしただけの空間。
やっとたどり着いた。

少し途中で不安になったけれど
約束の2分前に着けてよかった。


中に入ると私は挨拶したのに
店の人と思われる人にジロっと一目されただけだった。
先客がいたがその人と話をするわけでもなく。
客は自分のファイルを開いてじっとお茶を飲んでいた。


とりあへず壁にかかっている絵などみていたが
5分以上無言状態が続いたあとで
「絵でも見て待っていて下さい。」
とさきほどジロっと見ただけの女性はパソコンをしながら言った。

絵は数点だったのでしばらくして椅子に座った。
15分以上経過していた。
次の約束があるのでもう帰ろうかと思った頃
先客が帰った。
暑い中をずっと歩いてきたので
私も喉が渇いていたけれど、勧めてもらえないので我慢した。


インターネットに
『海外アートフェア出展者募集』と載せられていたので
応募して、ファイルを見せて欲しいということになったので
こんなところまできた。


客が帰ったところで
「ファイル持ってきた?」と何故か不機嫌な感じで聞かれたが
ファイルをみせた。


絵に関しての感想は一言も無く
『海外のアートフェアって一人10万から20万かかるんだけど、知ってる?』

そうでないアートフェアの存在も知っている。
それよりも、この人の態度も口の聞き方も明らかにオカシイ。


『こちらのホームページ拝見させて頂きましたが
==さんはこの前一緒に京都のアートフェアに出展したんですよ。
こちらからも多数海外のアートフェアに参加されてますよね。
==さんもそんな金額を払って出展されてるんですか?』

急に女の人は後ろの壁を向いて、後ろ向きに話し出した。
悟られたくない何かがあるのだろう。
『ーーさんはまあ特別だから、6万くらい。輸送費いれると8万だけど…』
振り返ると明らかに眉間に皺を寄せていた。
『いきなり縁もゆかりもない人をギャラリーが
海外のアートフェアなんかだしてくれるなんて虫のいい話があるわけないでしょ!』

これが『海外アートフェア出展者募集』
とネットに堂々と出している人の言い草だろうか?

『では、ーーさんは此所で展示をよくされてるんですか?』
『最近はあまりないけど…』


『ファイルだけでは分かりにくいとおもって現物も持ってきましたが
ご覧になられませんよね?』


さらに女の人は眉間の皺をぐいとせばめて語気を強めて言い放った。
『てか、出展する意志ないでしょ!』

『出展する意志はあるから此所に来ているんです。
でも、こういうのって相性がありますから。
ここにはとてもお任せできないですね。』


さっさと帰れといわんばかりに無言でファイルを投げるように突き返された。

私も無言でファイルをしまって無言でそこを出た。


帰り道は、また小さな墓場と踏切二つと、ファッションセンターしまむら
延々続く裏びれた商店街と西友とツタヤだった。

ひと気のない街だと思った。